胸のあたりではかなく揺れる桜ペンダント

桜が散ってしまって、木の葉が芽吹きそしてじめじめとした梅雨がやってこようとしているが
僕はまだ桜の季節に取り残されている。なぜ僕は、あの時、もっと早くいかなかったんだろうって。
そうしたらまだ渡せるチャンスがあったかもしれないのに。間に合ってたかもしれないのに。
まだあの箱は机の引き出しの奥にしまってある。目についたらすごく後悔するからって、なるべく見ないところにしまった。

住所、聞いておけばよかったかな。

あの時の思い出がよみがえる。

僕が彼女と出会ったのは、中学2年生の時だった。彼女はAET(英語指導助手)として学校に来ていた。
10歳くらい年上だったろうか。僕にとってはクラスメイトの女子なんかよりよっぽど魅力的に思えた。
クラスメイトの女子は今はやりのアイドル?にきゃあきゃあ言ってるし、話す言葉もなんかガキ臭く思えた。
僕には到底ついていけない。まだ友達としゃべっているほうがましだ。

あー。なんで英語の時間が50分で終わってしまうのだろう。

先生が黒板に書いたときのなめらかな筆跡、はっきりとした発音。彼女は明るく、みんなに親しまれていた。名前はChris先生。
僕は何としても先生と話したくて、放課の時間やホームルーム後に彼女に会いに行った。
たどたどしく、でも何とか先生と話したいと思って今までに習った文法や単語を思い出しながら話しかけた。

彼女は僕の話す下手な英語に微笑みながら、難しいと思う単語があれば僕でも分かる単語に置き換えて話してくれた。
ぜんぜん意味なんて通じてなかったのだと思う。でも先生と一緒に過ごせるだけで嬉しかった。
英語だけは勉強を頑張った。先生に褒めてもらいたくて。おかげで試験ではいつも90点台で、内申点は4か5だった。
まあそのぶん他の教科が全滅だったわけだけれど。

でも先生といられる時間は長くは続かなかった。
先生は家族の事情で急遽日本を離れなくてはならなくなった。
僕は先生にプレゼントしようと、お小遣いを貯めて桜のネックレスを買った。
先生が和モチーフ、特に桜が大好きだったのを知っていたからだ。

ラッピングしていざ渡そうと思い、空港に向かったが、道中電車が遅れていて出発時刻に間に合わず彼女はもうすでに飛び立ってしまった後だった。
今思えば僕の初恋だった。
枝付きの桜が、先生の胸の上で揺れているのはとてもきれいなんだろうな。シルバー925だし。
桜の中心にはキュービックジルコニアがついている。はかなく揺れる輝き。

さよなら先生。さよなら僕の初恋。お元気で。